男女②
早朝の図書館、二人以外誰もいないロビーの椅子に向かい合って座っている男と女。
噛んでいた風船ガムを飲み込んで、男は女を睨んだ。
「四十九日、行かなかったらしいな」
「四十九日? 誰の?」
「とぼけるな。村中のだ」
「ああ。使い捨てカメラを分解して感電死した、あのマヌケのこと」
「そうだ。…何故行かなかった」
「別に。行く行かないは個人の自由でしょ」
「泣いてた奴の言い草とは思えないな」
「…悪趣味」
「教えろ。あの日から昨日までの間に、どういう心境の変化があった」
「別に。あんなマヌケのことなんて、さっさと忘れるに限るってだけよ」
「正直に言えば、便宜を図ってやってもいい」
「何が言いたいの?」
「クソみたいなウソを吐くのを今すぐやめろ」
「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
「残念だ」
男は指を鳴らした。
貸出カウンターの影、本棚の死角から、男達が次々に姿を現す。
「何よ、それ…」
「教えろ。俺に嘘を吐く理由は何だ」
「何を、言ってるの?」
「まだとぼける気か」
「…だから、何を」
「村中は、死んでいない」
男はスマートフォンを取り出し、女にその画面を突き付けた。
「奴はベネズエラにいる」
サングラスをかけた青年の写真を見つめてから、女は観念するように肩をすくめた。
「バレちゃった」
………
……
…
どうやら死んでなかったようですね。村中です。
そろそろ涼しくなりましたね。
どうでもいいですね。
ではまた今度。